19 迷い猫 【 えび × はにょ 】


迷い猫 【えび×はにょ】




 にゃーんと猫は鳴いて、鈴はぶすぶすと機嫌が悪かった。炒飯ばかりを量産し続ける鈴の背中を、理樹は猫と一緒になって見つめていた。機嫌が悪いのは猫のせいではないのだろう。それは鈴もわかっているようで、だから、機嫌が悪い。

「最近、機嫌悪いね」
「誰のことだ?」
「鈴のことだよ」
 ここのところの小雨続きの天気のように鈴の機嫌も斜めに傾いていた。理樹がカフェテラスについたときにはカレーをすでに食べ終えてしまっていたり、そもそも来ない日もあった。図書館で昼寝をする急務があったとか理由は酷いもので、詰まるところ、機嫌が悪いときの鈴だった。以前、お気に入りだったらしいアイスを勝手に食べてしまったときもこんな感じになっていた。もちろん、その時よりも今回の方が機嫌の悪い期間はずっと長い。
「機嫌、悪くなんてないぞ」
「そう?」
 目線を横にそらしながら鈴はカフェオレをちびちびと飲んでいく。カップを置くのを待ってから理樹は言葉を続けた。
「この前、鈴の家に行ってからだね」
 機嫌悪いの、と言うと、軽く睨んだ視線が飛んでくる。


(迷い猫/P340)



 機嫌の悪い鈴はぽつんと見知らぬ袋小路に追い込まれた猫のようで。でも、迷っているふうに見える猫が本当に迷っているかなんて、誰がわかるだろう? 猫の鳴き声にまみれた部屋で、強くなるってどういうことなんだ、と機嫌の悪い鈴は訊いた。――猫と一緒だ。
 つよいかつよくないかなんて、誰がわかるだろう?



「あたしも」と頷きながら鈴は言った。「よくわからん」
「そっか」
「だから、勝負しよう」
 鈴はボールを理樹の前に突きつけてそう言って、理樹はぽかんとした阿呆な顔を浮かべた。さっき渡されたバットを両手に持ち直す。
「勝負?」
「わからんなら、逃げるんでも知らん振りするんでもなくて、せめて勝負だ」

(迷い猫/P347)